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岐阜地方裁判所 昭和48年(行ウ)5号 判決

原告 荘加久夫 外一名

被告 美濃加茂市長

主文

一  原告らの請求を棄却する。

二  被告変更許可決定後の訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告美濃加茂市長岸東八郎が、訴外株式会社日立製作所岐阜工場用地内の鉄塔移転工事を美濃加茂市開発公社に代行させ、右日立製作所に対し、債務負担行為として、昭和四七年度に金四二五万円を支出し、同四八年度に同額を支出しようとしている合計金八五〇万円の補助金の支出を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  訴外財団法人美濃加茂市開発公社(以下公社という)は、訴外株式会社日立製作所(以下日立という)に対し、日立岐阜工場第二期工事のため、美濃加茂市加茂野町木野所在の工場建設用地(以下本件用地という)を譲渡した。

被告は、本件用地内にある送電線用鉄塔(以下本件鉄塔という)が障害となつたので、これを移転するための工事(以下本件移転工事という)を公社に代行させ、日立に対し、本件移転工事に要する費用の補助金(以下本件補助金という)を債務負担行為として昭和四七年度に四二五万円を支出し、同四八年度に同額を支出しようとしている。

2  ところで、被告は、公社の理事長と自民党美濃加茂支部長とを兼務していたものであるが、当時、日立岐阜工場内で賄いと食料品の販売等をする予定であつた中濃食品株式会社(以下中濃食品という)の設立発起人となり、昭和四四年九月一八日同社を設立し、同時に同社の取締役となり、しかも、当時、美濃加茂市市議会議員、自民党市政クラブの会長、公社理事を兼務していた訴外渡辺文雄(以下渡辺という)を中濃食品の代表取締役に選び、本件補助金等の支出決定を容易にし、同四四年一一月二六日本件補助金を債務負担行為として同四七年度及び同四八年度に各支出するよう予算化した。

3  しかし、工場建設の宅地造成において、障害物の除去や移転は通常伴うものであるから、本件移転工事においてもその費用は日立が全額負担すべきものである。

しかも、地方公共団体は、住民福祉を基本とし、補助金の支出は、地方自治法二三二条の二の規定に基ずき、公益上必要がある場合に限つて認められるところ、美濃加茂市は、特色のない平凡な都市で多額の負債を抱えているのであるから、補助金の支出は、特に積極的な公益性を必要とし、市内の零細企業への影響も考慮しなければならず、日立の場合、その最初の誘致の時点でならともかく、本件のように第二期工事については、日立の営利のための私的行為にすぎず、本件移転工事については美濃加茂市との関連性はなく、当時すでに企業を優遇している美濃加茂市に対して批判の声が出ていたのであり、日立など電気産業の進出で雇用は増したが女子労働が主体で、そこに弱点がある旨の指摘もあつたのであり、特に日立は、世界第七位にランクされる大企業であるから、本件補助金は必要でなく、日立を補助することによつてその生産力を増し、ひいては市民のためになるような公益性は考えられなかつたのであり、しかも、前記のように中濃食品は、日立岐阜工場内でのみ営業する営利会社であり、右工場の影響を直接受ける受働的立場にあるから、中濃食品の役員となつている被告としては、これを考慮して本件補助金を支出し又は支出しようとしていたものと考えられる。

4  美濃加茂市と工業について

美濃加茂市には同県下の多治見市の陶磁器及び関市の刃物といつた特産物はないが、しかし、工業開発だけが経済発展と住民福祉を捉進するものではなく、美濃加茂市は、交通の要衝としての地方都市の持味を生かした商業が発展し、ベツトタウンとしての住宅、教育機関としての学校等の建設も進んでいるのであり、従来積極的に工場誘致をする動きはなかつた。

5  日立テレビ工場誘致とその効果について

日立としては小規模な岐阜工場では、組立作業がその主体をなし、若い女子従業員が多く、地域住民の望む中年以上の男女の雇用は少なく、また、組立工場であるから、下請仕事が少ないのが特徴で、被告が主張するような効果は期待できなかつたた。

(一) 地域住民に及ぼした効果について

日立岐阜工場が、その操業を開始した昭和四四年当時人手不足で困つていた時代で、美濃加茂市内の中小企業商店は、日立という看板に憧れて従業員が転職するのを心配しており、また、日立は、同四六年のドルシヨツクと対米輸出の停滞等に対処するため、岐阜工場の臨時工を早々に解雇したので、住民に動揺を与え、その批判が起つていたばかりでなく、岐阜工場における美濃加茂市内在住者からの雇用は、総雇傭数の半分をさほど越えたことはなく、日立が、同市の雇用捉進に寄与した程度は低い。

(二) 美濃加茂市に納入される金額について

被告は、公益性を主張する一つの根拠として固定資産税の納入を挙げているが、同税は、地方税法に基ずいて他の事業所も一般市民も納めており、日立は右納税義務を果したに止まり、特に金額が多いからといつて、公益性を認める根拠とはならない。

6  公社と美濃加茂市について

被告主張のとおり、公社が営利を目的とする法人でないことは認めるが、しかし、そうであるからといつて、公社が行なつた事業が公益上必要な事業であるということにはならない。

7  本件について

被告は、昭和四四年一月日立の白黒テレビ組立工場の誘致によつて地域住民及び市の財政に多大の貢献をした実績に鑑み、カラーテレビ組立工場を誘致することとなつた旨主張するが、同四四年六月に白黒テレビ組立工場の操業を開始したのであるから、同年の税収は全くなく、同年に美濃加茂市内から雇用した一四七名については、失業者を救済したわけではなく、他事業所からの転入が大半であつて、右多大の貢献をした事実はない。

また、日立は、本件鉄塔があつて工場用地として危険で不適であるのに他所に用地を求めず、敢えて本件の所に求めたのは、既設工場の隣地であつたからであり、また、本件鉄塔移転が、工場拡張上避けられないことを承知の上でこれを買受けたものである。

また、用地を取得する場合には、山林、原野、田畑等に区分して評価するのが通常であり、本件の土地も作物や立木の補償費として一九五万円を支出しているのに鉄塔という障害物のあつた山林、原野についてはなんらの条件を附することなく、各同一価格で買受けているのであるから、買受後の本件移転工事は、日立個人の問題である。

また、被告は、美濃加茂市が、本件用地を取得し、本件移転工事をした後に適地として半額の工事費を補助しなければ、カラーテレビ工場の誘致が不可能であつたかのように主張し、かつ、日立と公社とは本件用地買収に関する覚書を取り交しているが、実際は、日立と地主との間でその代金が授受され、その登記も右両者間で直接なされており、公社は、単に土地を斡旋したにすぎず、本件移転工事は、土地の所有権が完全に日立へ移転した後である昭和四五年に実施されたもので、右主張は誤つている。

8  監査請求について

原告らは、右のとおり、被告が、その公益上必要がある場合に当らないにも拘わらず、地方自治法二三二条の二の規定に反し違法に本件補助金を支出し又は支出しようとしているので、昭和四八年八月三日同法二四二条の規定に基ずき、美濃加茂市監査委員に対し、同市長不当行為是正措置請求の住民監査を求めたところ、同委員は原告らに対し、同年一〇月二日その公益上必要があると認められるので、不当支出とは認められない旨の監査結果をその頃到達の書面をもつて通知した。

9  しかし、原告らは、右監査結果に不服があるので、請求の趣旨記載のとおり求める。

二1  請求原因に対する認否

(一) 請求原因1は認める。但し、本件補助金を支出した相手方は日立でなく公社である。

(二) 同2のうち、会社関係は認め、その余は争う。会社関係と本件とは、なんら関係がない。

(三) 同3ないし7は争う。

(四) 同8のうち、監査請求があり、その結果が出たことは認め、その余は争う。

2  被告の主張

(一) 美濃加茂市と工業について

美濃加茂市は、人口三万八、〇〇〇名の小都市で、さしたる産業はなく、なかでも工業については、同市の地域をうるおすに足りるものは全くなく、右地域住民の職場は、小企業の自動車修理や小飲食店従業員程度で、その他は他地区に進出する以外収入の途がなく、他都市とくらべ経済発展の停滞地域である。このような都市は全国に散在していたので、国は、昭和三六年一一月低開発地域工業開発促進法(以下低工法という)を施行して、経済発展の停滞的な地域の工業開発を促進し、地域民の雇用の増大を図り、地域間における経済的較差の縮少を図つて、国民経済の均衡ある発展に資することにして、低開発地域の市民及び市の利益に寄与することにした。

美濃加茂市は、右経済発展の停滞地域に該当していたので、昭和三七年九月一五日低工法二条による低開発地域工業開発地区の指定を受け、工業工場の誘致によつて、地域の発展、住民の雇用の増大を図ることとなつた。

(二) 日立テレビ工場誘致とその効果について

(1) 右指定を受けた美濃加茂市当局は、市長を先頭として、

(イ) 公害のない工場

(ロ) 男女従業員を多く使用する工場

(ハ) 固定資産税を多額に納付する工場

という目標のもとに工場誘致に全力をあげ、また、地域住民もこれを切望して大いに協力する態勢であつたところ、日立の白黒テレビ組立工場が、最も右条件の工場に該当していたので、その誘致に全力をあげ、他地区との競争もあつたが、遂に昭和四四年一月その誘致の決定をみて、同年六月工場建物の建設も完成し、その操業を開始した。

続いて、同年一一月カラーテレビ組立工場の誘致にも成功し、同工場は、同四五年四月から、その操業を開始し、地域民の雇用促進、経済的発展に寄与するに至つた。

(2) 地域民に及ぼした効果

昭和四四年六月右白黒テレビ組立工場の操業開始により、同工場従業員は四〇六名となり、そのうち、美濃加茂市地域住民の就職者は、男女合計一四七名であつた。続いて、右カラーテレビ組立工場の増設により、その雇用人員は増加し、その後、事業は固定し、順次職場の整理をして来たが、同四八年一月現在その従業員は六五〇名となり、そのうち、同地域住民の就職者は、男女合計三三五名であり、もつて、同地域住民の経済力に寄与する効果をあげている。

(3) 美濃加茂市に納入される金額について

これは固定資産税が主である。ところで、低工法五条により、誘致された工場は、一定額までの固定資産税は免除されるが、他方、その免除分を補なうため、国から交付税として、その地の自治体に対し交付される仕組みになつている。本件の前記白黒及びカラーテレビ組立工場誘致以来、日立から美濃加茂市に納入された金額は、左表のとおりである。

昭和四五年度

同四六年度

同四七年度

同四八年度

課税額

四、七四〇、四九〇円

一二、七五五、〇〇〇円

八、一七三、六二〇円

一六、二三八、九二〇円

交付税額

八、五一九、九二〇円

二二、八一三、七四〇円

一九、五五七、二〇〇円

一〇、八六二、八三〇円

一三、二六〇、四一〇円

三五、五六八、七四〇円

二七、七三〇、八二〇円

二七、一〇一、七五〇円

(備考) 昭和四五年度は白黒のみ、同四六年度以降はカラー共。

(4) 右表から、次のことが明らかである。

即ち、昭和四五年度の固定資産税及び交付税は、白黒テレビ組立工場が、同四四年六月から操業したので、白黒テレビ組立工場の場合のみのそれであるが、同四六年度の固定資産税及び交付税は、カラーテレビ組立工場が、同四五年四月から操業したので、白黒と併わせて、前年度の約二倍の増加となり、同四七年度、同四八年度には、工場建物の償却、交付税の減額等があつたが、将来に亘つて固定資産税は、絶えることなく納入されるのであつて、日立工場は、全く美濃加茂市の地域発展のために使用されるものであつて、公益上必要な誘致であつたのであり、地域住民の経済力に寄与するための公益上必要な行政であつたことは明らかである。

(三) 公社と美濃加茂市について

これは、公社の寄附行為に明らかなように、美濃加茂市の発展のため必要とする用地の取得、造成、分譲等を行なう法人であつて、同市の行政に従つて、右事業を行なうのである。従つて、公社の事業は、同市の地域の発展、地域住民の経済発展に寄与する行政の実行のための用地に関するものであつて、営利を目的とするものではなく、公益上必要な事業の遂行を目的としている。

(四) 本件について

美濃加茂市は、昭和四四年一月日立の白黒テレビ組立工場の誘致により、前記のとおり、同市の地域住民及び同市の財政に多大の貢献があつた実績に鑑み、更に、同市の地域発展と同市地域住民に対する経済的寄与を図るため、続いて、カラーテレビ組立工場を誘致するべく、当時、東北地方との誘致競争に勝つため必死の努力をし、同年一一月その誘致に成功し、同四五年四月その操業開始の運びに至つたところ、右カラーテレビ組立工場建設用地として適している土地である本件用地上に高圧送電用の本件鉄塔があつて、これを除去しない以上、右工場用地としては危険かつ不適であつたので、右工場誘致が公益上必要であることは、白黒テレビ組立工場の誘致の効果により十分承知していた同市としては、本件鉄塔を除去して適地として誘致に成功し、同市地域住民の経済上の寄与及び同市自身の財政上の寄与に当るべく、その公益上の必要から、公社の行なう本件鉄塔除去費の半分程度を公社において負担し、その余の除去費を日立において負担してもらうこととし、これによつて右誘致の成功が期待し得たので、公社の右負担分を補助するために本件補助金を支出したもので、この支出は全く公益上必要があつてなされたもので、地方自治法二三二条の二の規定に照らし、適法なものであつた。

第三証拠〈省略〉

理由

一  請求原因1のうち、本件補助金を支出した相手方が日立であるとする点を除き、その余の点については、当事者間に争いがなく、証人大野光夫の証言によれば、右支出した相手方は、公社であることが認められる。

同2のうち、被告が、当時、日立岐阜工場内で賄いと食料品の販売等をする予定であつた中濃食品の設立発起人となり、昭和四四年九月一八日同社を設立し、同時に同社の取締役となり、渡辺が、同社の代表取締役に選任されたことについては、当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第八号証によれば、被告は、同社設立当時、自民党美濃加茂支部長であり、成立に争いのない乙第三号証の一、二によれば、本件用地売買契約締結当時、被告が、公社の理事長であり、成立に争いのない乙第二号証によれば、その主張の本件補助金の予算化がなされたことが各認められ、本件補助金等の支出決定を容易にした旨の主張については、これを認めるに足りる証拠がない。

二  監査請求について

請求原因8のうち、その主張の監査請求があり、その結果が出たことについては、当事者間に争いがない。

三  本件補助金支出の適法性について

1  本件補助金の支出が、地方自治法二三二条の二の規定に基づき、公益上必要がある場合に限つて認められることについては、当裁判所に顕著である。

2  そこで、右公益上の必要性について判断するに、成立に争いのない甲第一三号証、同乙号各証、前掲証人大野光夫、証人高井郁夫、同渡辺茂彦の各証言によれば、美濃加茂市は、従前は、みるべき産業がなく、そのため税収が少なく、これらの点が同市の弱点となつており、これがまた、同市の財政的劣勢の原因となつていたので、同市としては、極力地場産業を育成し、かつ、工場を誘致することによつて税収を増し、同市民に対し、その働く場を提供し、もつて同市民の発展を図ることを重要施策としていた。

そこで、同市は、昭和三〇年代初め頃、右見地に立ち、同市市条例で工場を誘致する方針を決定したが、見るべき工場の誘致を実現することができなかつたので、右条例を改正したが、それでも実現できなかつた。その後、同三六年に低工法が施工され、同市は、同法による指定を受け、国及び県からその優遇措置を受けることとなり、また、自治省から工場適地指定を受け、これによつて通産省から工場立地調査適用地の指定を受け、これに基づいて同市に工業団地造成調査委員会が設けられ、同四三年右工場立地の適否につき、専門家の報告を受けたが、これによれば、同市は、内陸工業適地とされていた。

その間、同市には、昭和三八年二月二六日同市の建設計画推進に必要とする事業地及び工場用地等の取得、造成、分譲、斡旋等を行ない、同市勢の伸展と同市民の福祉増進に寄与することを目的とし、これらを事業内容とする公社が設立され、その理事長には同市市長がこれにあたるものとされており、本件補助金支出時には、被告が、右理事長の職に就いていた。

同市は、右事情の下において、有力な企業で、公害がなく、同市住民を雇用し、もつて同市の発展を図ることを工場誘致の条件とし、その努力をしていたものであるが、同市は、右事情からみて、同市が、白黒テレビ組立工場の立地に適つているものと考え、同市に右工場を誘致するため、その努力をした結果、本件用地に隣接する土地に日立の白黒テレビ組立工場を誘致することに成功し、昭和四四年六月その操業が開始され、その時の従業員総数は、四〇六名で、そのうち、同市内在住者は、一四七名であつた。

そこで、同市は、右実績に鑑み、続いて本件用地に日立のカラーテレビ組立工場を誘致することとし、公社をその事業に当らせることとした。しかし、当時、日立は、カラーテレビ組立工場の候補地として全国で五、六か所挙げており、しかも、同市には前記白黒テレビ組立工場が既に建設されていたため、同所にまたカラーテレビ組立工場を建設すると工場が一か所に集中することになり、従業員の確保や会社のPRの点で難点があり、その意味で同市は必ずしも日立の望む所ではなかつたうえ、本件用地上に高圧送電線が架線されている中部電力の本件鉄塔が二基設置されており、これがまた右工場予定地の障害となつていたため、日立は同市に対し、本件鉄塔を本件用地から除去しなければ誘致に応じられない意向を示していたので、同市は中部電力に対し、本件鉄塔を本件用地から他に移転するよう依頼したが、中部電力の意向は、移転工事費を同市で負担するならば、右移転に応じるということであつた。

右事情の下で仮に、同市が、本件移転工場につき、その補助をせず、しかも、本件鉄塔を本件用地から除去しなければ、結局、本件用地の取得価格を安くせざるを得ず、そうなれば、その用地所有者が、その売渡しに応じなくなる虞れがあつた。

そこで、同市は、本件補助金の支出は、公益上必要があるものと認めたのであるが、当初、日立は、本件鉄塔移転に要する費用の全額を同市において負担するよう希望していたが、同市と日立との間で交渉した結果、同市はその半額を負担することとし、これを本件移転工事を行なうことになつていた公社に対し、補助費として支出することとし、その余の除去(移転)は、日立においてこれを負担することとなつた。

公社は、右のことを前提として本件移転工事を行ない、また、日立に対し、本件用地を譲渡し〔但し、登記簿上は、本件用地の所有者(共有者を含めて)から直接日立に移転する形をとつた〕、かくして本件用地上に日立第二期工事としてのカラーテレビ組立工場が完成し、また、前記のとおり、本件補助金につき、その予算化(合計一、〇〇〇万円)がなされたが、これはその後減額され、昭和四七年度に四二五万円を支出し、同四八年度に同額を支出しようとするに至つた。

日立カラーテレビ組立工場は、右経緯の下に昭和四五年五月からその操業を開始したのであるが、前記白黒テレビ組立工場操業開始以降の日立岐阜工場(日立横浜工場岐阜分工場)の従業員数及び課税については、別表(一)(二)のとおりとなる。(なお、前掲証人大野光夫及び弁論の全趣旨によれば、右別表(二)のうち、低工法による減税額とあるのは、被告の主張(二)(3)のとおり、交付税として同市に対し補給されたものであることが認められる)

以上の事実が認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、被告が、本件補助金を支出し又は支出しようとすることによつて同市住民の雇用人員が増加し、住民の経済力増加に寄与し、前記各工場から同市に対する納税が恒常化し同市の財政を潤すことが十分期待し得たものであるから、被告の右各行為は、公益上の必要があつてなされたもので、地方自治法二三二条の二の規定に照らし、適法なものであつたと認められる。

原告らは、被告が、公社の理事長や自民党美濃加茂支部長を兼務し、中濃食品の設立発起人や取締役となり、あまつさえ、同じく自民党に属する渡辺を中濃食品の代表取締役に選んでいる旨主張(請求原因2)するが、そうであるからといつて、前記認定の公益上の必要性を減殺するものではなく、前掲甲第一三号証、同乙第三号証の二、原告家田本人(訴取下前の)の供述によれば、本件用地売買に関する契約書及び覚書の各日付けが訂正されていることが認められるが、これが前記認定の公益上の必要性を左右するものとは考えられず、その余の前記公益上の必要性を否定する原告らの主張は、いずれもこれを認めるに足りる証拠はない。

四  よつて、原告らの本訴請求は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石川正夫 亀岡幹雄 大島哲雄)

別紙〈省略〉

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